ジョージ・ソロス
- 作者: ジョージソロス,George Soros,寺島実郎,藤井清美
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2004/05
- メディア: 単行本
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彼の著書をみると,科学哲学者であるカール・ポパー氏の考えに共感しているのだということがわかる.ポパーは「反証可能な命題のみが科学的命題でありうる」(”白いカラスは存在しない”というのは科学的命題といえるけど,”神は存在しない”というのはそうではない)というスタンスから始めて,批判的合理主義や漸次的社会工学に基づく「開かれた社会(Open Society)」という考え方を提唱している.
ソロスは,これらをただの形而上的な問題にとどめずに,実際に投資行動に実践し,再帰性(あるいは相互作用性)などの独自の視点も加えながら利益を得るための有効なシステムとして応用したことに意義がある.
われわれは自分の考えを暫定的に正しいものとみなし、絶えず見直しを続けていかなければならない(略)。究極の解決策を見つけたと主張する人たちがいるとしたら、その人たちは必ず間違っている。彼らが自分の見方を押し付けたいと思っても、それは他の見方を抑圧(略)することでしか実現できない。
そのようなソロスが,近年のアメリカの現状を批判するために出版した本.原題が The Bubble of American Supremacy - Connectiong the Misuse of American Power (=アメリカ単独覇権主義の危険な過ち)であるのに対して,ちょっと強引な訳題をつけてしまっているのだけれど,内容は従来からのソロスの主張に基づいて現政権の政策を批判しているというもの.
矛盾をずっとかかえこみながら、答えを焦らずに実際的解決策を見出してはいくが、その矛盾にはずっとこだわっていく。(略)そうしているうちに最初は矛盾としてとらえられていた現象が、異なるパースペクティヴや、異なる次元の中で矛盾を持たない姿に変貌する。それを待とうとするのです。
村上春樹、河合隼雄に会いにいく (新潮文庫)
という言及にも近いものを感じる.こういうのはとても同意できるし,批判者・論評者としてのスタンスとしてはまっとうなものだと感じる.それでは実際に政権運営者がどうすればよいのかというのは,また別の難しさがあるのだろうけれど.
しかし「100年安心」みたいなキャッチコピーというのは,こういう考え方に従う立場をとるならば,絶対にありえない言及だといえる.戦争が終わってから60年しかたっていないというのに,100年後にどうなるかなんて(社会的な制度に関して言えば)わかるはずがない.