コールズベイ→トリアブナ

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9:20-11:30 コールズベイ→スワンシー
12:20-17:00 スワンシー→トリアブナ
(自転車、90.4Km)

7:20起床。「渡し舟」の男に、9時に電話をする約束をしていたのだけれど、キャンプの撤収と出発の準備に時間がかかり、20分遅れて連絡を入れる。10:15に船着場に来るようにといわれて、9:40にコールズベイの町を出発する。船着場までの半島の一本道を北上していると、前に2人組みの自転車が見える。追いついてみると、スコッツデールのキャンプ場で出会ったオーストラリア人の夫婦だった。

彼らとは行程の中で何度も追い越し追い越されを繰り返していた。その後の行程は同じルートを取るつもりだといいながらも、彼らが2週間かけてホバートに向かうつもりなのが、自分は1週間で走りきろうとしていたので、最後は冗談で「Never see you again!」といって別れていた。それが、蓋を開けてみると3日後に再び行程が重なったのだから互いに驚いていた。

話を聞いてみると、彼らも自分と同じ渡し舟に乗ろうとしているのだと分かり、一緒に船着場に向かう。しばらくすると、車で船を牽引した渡し舟の男がやってくる。小さなモーターボートで、3人は1度に乗れないため、今日の目的地がより遠くの自分が先に乗せてもらう。靴と靴下を脱いでかばんに入れ、自転車を担いで船に乗り込む。対岸はすぐ先に見えていて100mも進まないうちに到着する。

対岸はナインマイルズ・ビーチという名前で、入り江の中に突き出している砂洲のような土地になっている。しかし、コールズベイの町でサラから聞いていたとおり、砂浜沿いの道を走るのではなくて森の中を抜ける単調な一本道だった。途中、民家の隣にある大木の幹に「秘密基地」のようにツリーハウスが据え付けられているのが印象的だった。

ナインマイルズ・ビーチを抜け、スワンシーの町のパン屋と持ち帰りの総菜屋で昼食を買い、海辺の公園で食べる。食べ終わった頃、そこへまたオーストラリア人の夫婦がやってくるが、今度こそといって別れを告げて出発する。左手にさっきまでいたフレシネ半島を見ながらの海岸沿いのA3国道の道はとても気持ちが良い。渡し舟の男が話していたとおり、トリアブナの町にたどり着くまでは一軒の店もなく、ただひたすらに美しい道が続く。スワンシーの町のパン屋で買ってボトルに入れていたりんごジュースは、はっとする位新鮮な味がしてうまい。

A3を外れてトリアブナの町に入っていくと、初めに見えたのは町外れにある荒涼とした墓地の風景だった。そして閑散としたスーパーマーケットで買物をしていると、店番をしていた店員の男から、背負っていたバックパックを下ろすようにと注意を受ける。そんな些細なことが重なると、だんだんとトリアブナの町に嫌気が差してきて、すぐ5km先にあるオーフォードの町を目指したい気分になる(町に嫌気が差すというのも変な話だ。要するに疲れて気分がささくれていただけのことだ)

しかし、オーフォードの海沿いのキャンプ場は、入り口にロープが張られ、シーズンオフのような気配であったので、やはりトリアブナの町へと引き返すことにする。数kmを無駄にして終わった。

トリアブナのキャンプ場には、先ほどのスーパーマーケットで見かけた女の子がチェックインをしていた。スイスから来たというブリヒッタは、タスマニアに来る前に、既にニュージーランドでのツーリングを終えていたのだといった。タスマニアを走り終えたらベトナム、そして日本に行くつもりだとのこと。また、2週間かけてタスマニアを走っていたけれど、僕が初めて会ったサイクリストだとも行っていた。

炊事場のテーブルで夕食後に、日本のツーリング事情を話す。海沿いの幹線道路はトラックがいっぱいいて危ないし詰まらないので、地図を見て太字で書かれてるお勧めルートを走ると良いこと。ユースホステルや宿は往々にして高いけれど、安く食事を食べさせる店はたくさんあるということ。そして、温泉や公衆浴場に慣れておくとよいことなど…今にして思えば、いくら日本の物価が高いとはいえ、世界一物価の高いといわれる国に住むスイス人には要らぬ心配だったのかもしれない。

アドレスを交換するときに、ブリヒッタがニュージーランドで出会った日本人のアドレスを色々と見せてくれる。自分もアドレスを渡して名古屋に来ることがあったら声をかけてよと伝える。明日は州都ホバートに戻るので、今日がタスマニアでのキャンプをする最後の夜となる。ブリヒッタに向かって、来月から仕事に就くつもりだと話し、そして日本の会社では長期休暇を取るのが如何に難しいかを語ったりもする。

夜寝袋に入って、随分と親父臭い説教じみた話をしてしまったなと思う(実際はそうでもないかも知れないけれど)。でも、この先3週間の休暇が取れるとも思えないし、たとえ取れたとしても自転車と登山用品一式35kgを抱えて国際線に乗り込んで、汗だくになりながら旅をして回るような気が起きなくなってしまっているだろう。

突然に、自分が「今回の旅に満足して、納得している」ということに思い当たる。素晴らしい場所を歩き、素晴らしい道を走り、素晴らしい人々と話をして、旨いビールを飲む…今回の旅は全てがうまく行ったし、やり残したことは何一つない。それに、そろそろいい歳でもあるし、年貢の納め時かと。妙に物分りよく納得して、満足している自分に気づく。もちろんこれからも、海外にも行くだろうし、自転車にも乗るし山歩きもするだろう。だけど、こういう本格的なバックパッキングはこれで終わり。それでいいじゃないか、と。