「本当の戦争の話をしよう」

本当の戦争の話をしよう (文春文庫)

本当の戦争の話をしよう (文春文庫)

彼らは辛うじて制御された臆病さの秘密を共有していた。
どこかに逃げるか潜りこむかじっと身をひそめていたいという本能的心情を。(略)
人々は殺し、そして殺された。そうしないことにはきまりが悪かったからだ。(略)
逃げるのがみっともないから仕方なくやってきたのだ。ただそれだけのことなのだ。

ベトナム戦争を題材にした短編小説集.
守るべきものに実体のない戦争は,どこかしら奇妙で救いがない.そのような状況では,自分の脚や指を撃って戦場離脱を図りさえすれば,ヘリコプターで安全な所まで帰還することができる.実際にそうする人が続出しないのは,「盲目的に、何も考えずに、与えられたものに黙ってただ追従するような人たち」に対する「きまりの悪さ」による.(イラク戦争時には,兵士の自傷行為が問題になっていたというニュースも,どこかで耳にした気はしたけれど…)
この本は「いわゆる反戦小説」ではないと訳者は指摘している.この本における戦争は「効率的に、狡猾に、人を傷つけ狂わせる比喩的な装置」として記述されている,と.
一方で「守るべきもののある争い」も,このゼロサムの世界においては確かに実在するのかもしれない(そのような「守るべきもの」は政治宣伝によって作り上げられる場合も多々あるけれど).「限りある資源を大切に」なんて悠長にいっていられる間に,どれだけの充分な技術の進歩を得ることができるんだろうか.