システム改革の正攻法

システム改革の正攻法

システム改革の正攻法

東京証券取引所が2010年1月に運用開始した取引所システムの再開発プロジェクトについての本。2005年にジェイコム株の誤発注事故の起因も取消処理のシステム不具合が原因であったり、システムメンテナンスの手順誤りで半日の取引停止の事故があったりした。また、ライブドア事件で取引量が増大したときには、システム増強のペースが追いつかずに、取引時間短縮措置を講じたりもしていた。
立て続けにトラブルを起こした後に立ち上げた再開発プロジェクトを4年掛けて完遂して、「取引約定までの処理時間0.002秒」という性能要件を満たした新システムをリリースする成功物語。
その過程のストーリーには、発注者である東証社員が愚直に要件定義やテストをこなしたというのが、本のタイトルの「正攻法」という言葉でよく表わされている。

ミーティングでの意見を基に、東証は「次世代システム構築の計画概要書」を作成、2006年9月にこの最終報告書を発表した。そこには、業務の簡素化に舵を切ったことを象徴する記述がある。「大発会大納会の半日立会いを廃止する」というものだ。
半日立会いのルールは、過去の慣習に則ったものであり、証券取引の運営上、必要不可欠というわけではない。にもかかわらず、過去からの慣習として残っていた。
半日立会いという「特別ルール」があると、終日立会いの日とは異なる業務運用やシステム運用の手順が必要になる。これだけならたいしたことではないように思えるかもしれないが、一事が万事。「現行業務ありき」で、なぜその機能が必要なのか、残さなければならないのかという議論がないまま、必ずしも必要ではない業務手順やルールなどを長年にわたって踏襲してきた。その結果、業務が複雑になり、システムの複雑化、ブラックボックス化につながっていた。
システム改革の正攻法

システムの再開発プロジェクトではあるけれど、背景にある業務手順の見直しにも踏み込んで対応をしている。

東証は要件定義のフェーズで4000ページの成果物を作成した。要件定義書が1500ページ、画面イメージや電文フォーマットなどを記した「外部仕様書」が2500ページである。この4000ページのドキュメントには、1万件の要件項目が含まれる。それらがひとつ残らず下流の設計書やプログラムに確実に反映されなくては、4000ページのドキュメントを作った意味がない。要件トレーサビリティの確保に取り組んだのは、要件どおりのシステムを作り上げるためだ。
システム改革の正攻法

発注したいシステムの内容を要件定義書に落として、テストに向けてのマッピングも実施している。
いずれも当たり前のことかもしれないけれど、全てを当たり前の顔をしてきちんとこなしているのが偉い。
取引までの処理時間0.002秒を達成するために、DBやディスクに書き込まれるのを待たずに、メモリ上で全ての処理を完結させる仕組みを作り上げていた。書き込みを待たずに処理の信頼性を確保するために、メモリベースのシステムを三重に多重化している。この辺りの基盤の仕組みは富士通東証向けに作った。