ザ・会社改造

 

彼らは自分が背負った新しい任務を正確に認識して、自分の能力が足りない点が何かを自覚し、初めからそのギャップをしっかり埋める行動に出た。それが「覚悟」というものだ。

困難な状況の中で彼らの覚悟を支えたのは、いずれも謙虚に考え抜く姿勢ではなかったか。それには経営リテラシーの高さとフレームワークが必要だ。それが明快なストーリーを生み出す。そのストーリーが周囲に伝わり、皆が熱くなってついていくのである。

どんなジャンプでも、《ポジション矮小化》を早々に解消し、やがてポジション以上の役割を発揮するようになることが大切だ。

著者は、金型部品・FA部品・生産設備に関する商品を製造・販売する会社であるミスミを大きく育てた経営者。本書は、ミスミという会社を急成長させるまでの取り組みが小説仕立てで紹介されている。
紹介されるテーマは、ABCを導入しての原価把握に基づく商品戦略の実現、中国市場への参入、トヨタ生産方式による生産改革、コールセンター改革など、どれも地に足の着いたテーマであり、それを成功させるためには、共通して戦略の重要性が語られる。
会社改造の取り組みは、「問題の本質」「改革シナリオ」「アクションプラン」がシンプルな言葉で表現され、共有されることで、初めて実現される。
本書の駿河精機社長のモデルとなった高家正行さんの講演を聴講したことをきっかけに、本書を読んだ。高家さんは、成長戦略を実現するためのフレームワークを示されたうえで、「胆力と冷静な観察眼」「リスクの事前の摘み取り」「Early Successの仕込み」というキーワードを示され、如何にして改革を成し遂げるかを話されており、本書にも通じるものがあった。

 

 

カムパネルラのつぶやき

 

カムパネルラのつぶやき

カムパネルラのつぶやき

 

「先生は、CIGSとか宇宙太陽光とか、いいこと尽くしみたいに言ってたじゃないですか。でも、それって違うじゃないですか。どんなものにだって必ず悪いところとか、欠点がある」

「俺が言いたいのは、安全だとか最先端技術だとかいうことに踊らされて、あとでひどい目に合うのはもうやめませんかってことなんですよ」

「忘れないことが大事なんですよ。忘れてしまえば、また目先の効率ばっかり求める危険なものをつくり出すんですから。人間は…」

 エネルギーフォーラム小説賞の第一回受賞作品。茨城県の電気設備制作会社に勤める主人公の、仕事と私生活との成長を、ラジオ番組とtwitterという道具を使いながら描かれる。
静かに物語が進むが、結末が前向きで良いと思った。

AI白書2017

 

第1章7節(136ページ)までと、安宅和人さん・冨山和彦さんの寄稿を通読。

 IoT化の進展とAI技術の急速な進化によって、デジタル革命で実現する機能がリアルでシリアスな世界に滲み出し、そこでも破壊的な影響を及ぼす可能性がある。主戦場はソフトの世界やネットのバーチャルな世界ではなく、よりリアルでフィジカルな領域、すなわち自動運転や医療、介護のような人の命に関わる「シリアス」なビジネス領域「Sの世界」に移る。

(略)

その影響が従来よりもはるかに広い範囲に及んだ時、そこで活動している既存の企業、そして個人は大きなピンチとチャンスに同時に遭遇することになる。

 冨山さんの寄稿の趣旨は、「Sの世界」はものづくりの技術の連続的な蓄積が意味を成す領域であり、日本企業が注力すべきポイントという点と、その裏返しで現在のGAFA中国企業の躍進に対して後塵を拝している現状について、悲観してばかりいる必要はないというものと理解。

白書で示されている技術動向を見ても、ディープラーニングの実用化には(インターネットの進展と計算能力の向上によってようやく実現可能となった、)大量のデータ準備と大量データ処理によるところが大きく、力業が求められる部分も大きいと感じる。だからこそ、正しく投資すべき領域を見極めることが重要になるのだというメッセージを受け取る。

また、TensorFlowやChainerなどのディープラーニングフレームワークだけでなく、Lnked Open Dataとしてデータセットを利用可能とする取り組みがあり、また、ImageNetの画像識別やWord2Vecの日本語解析の学習済みモデルが公開されていて、公開モデルをベースに自用途に必要なチューニングを施す転移学習の仕組みがあることも知る。

力業に頼る必要がある技術だけに、試行には活用できるリソースをうまく組み合わせることも要点となると感じた。

ディープラーニングG検定公式テキスト

 

深層学習教科書 ディープラーニング G検定(ジェネラリスト) 公式テキスト

深層学習教科書 ディープラーニング G検定(ジェネラリスト) 公式テキスト

 

「強いAI」の立場では「人間の心や脳の働きは情報処理なので、本物の心を持つ人工知能はコンピュータで実現できる」と考えており、「弱いAI」の立場では「コンピュータは人間の心を模倣するだけで本物の心を持つことはできないが、人間の知的活動と同じような問題解決ができる便利な道具であればよい」と考えています。

ジョン・サール自身は、人の思考を表面的に模倣するような「弱いAI」は実現可能でも、意識を持ち意味を理解するような「強いAI」は実現不可能と主張しました。

 本書は検定試験のテキストであるが、ディープラーニング技術に限らずAI(人工知能)に関する幅広い論点をカバーしている。

上記引用の「強いAI・弱いAI」の他にも「AI効果」「身体性」「シンギュラリティ」など、AIブームが続く中で誤解に基づく幻滅を回避し、健全に着実に社会実装を積み重ねていくために理解すべきキーワードが「人工知能分野の問題」として一つの章にまとめられている。

Googleのネコ」「AlphaGo」「自動運転」など、近年AI応用の実用化例が次々に社会に組み込まれていく中で、現在のAI研究の進捗度がどの程度であり、決して万能ではないAIを如何に組み込んでいけばよいのかの目利きの力が問われているのだと感じる。

人工知能は人間を超えるか

 

将来実現されるかもしれない人工知能のことを考えると、いくつもの疑問が湧く。

人工知能が実現したとき、それはどのような動作原理によるものなのだろうか。人間の知能はどのような仕組みだと理解されるのだろうか。自分が見ているこの世界やこの認識は、はたして何らかの方法で説明可能なのだろうか。自分が見ている以外の世界や認識は存在するのだろうか。自らの理解の方法が、自らの理解の限界をどのように規定しているのだろうか。まだ見ぬ人工知能は、それを簡単に打ち破り、さも当たり前のように、われわれにその事実を語りかけるのだろうか。

著者があとがきに記しているとおり、現時点では「人間の思考を機械で再現する」という意味の人工知能は実現していない。むしろ「作り出せること」と「理解すること」がある意味で等価だとすると、人工知能を実現できる日はそれ程簡単に訪れないだろうことは容易に思い起こされる。

にも拘わらず、近年のAIブームは取り組むだけの価値のある進歩であり、それは、高次元データから有用な特徴量を導く手法が見出されたことによると著者は主張する。

本書で示される推論と探索(第一次ブーム)と、エキスパートシステム(第二次ブーム)は、自分の学生時代にも既に過去のものとなっていた。2000年代初めは機械学習のキーワードの下、パラメトリック統計学に対して柔軟な関数近似能力を持つが「次元の呪い」には打ち勝てないニューラルネットワークの発見的なアルゴリズムに対して、SVMベイズ手法が一つの道筋になるかと期待が高まる時代だったと理解している。

問題は、高次元の表現ではなく特徴量抽出が手順化されていないことだった。一つの答えが深層学習によって示された今、機械学習・深層学習という第三次ブームをブームと幻滅で終わらせてはならないという著者の想いを感じられた。

9プリンシプルズ

 

9プリンシプルズ:加速する未来で勝ち残るために

9プリンシプルズ:加速する未来で勝ち残るために

 

この本はいくつか複雑な主題を扱っているけれど―暗号、遺伝、人工知能など―その主張は単純だ。われわれの技術は、社会としてそれを理解する人間の力を追い越してしまったということだ。だからいまやわれわれが追いつかなくてはならない。

われわれはありがたいことに(またはのろわしいことに)おもしろい時代に生きていて、高校生があたりまえのように遺伝子編集技術を使って新しい生命体を発明し、人工知能の発達で政策担当者たちが、広範で永続的な失業の心配をしなくてはならなくなっている。われわれの古い心の習慣―石炭、鋼鉄、安楽な繁栄の時代に形成されたもの―では不足なのも当然だろう。強いものがいまや必ずしも生き延びるとは限らない。あらゆるリスクを軽減させる必要もない。そして企業はいまや希少な資源のための最適な組織単位じゃない。

 MTIメディアラボ所長の伊藤穣一さんと同研究員のジェフ・ハウの書。古くは映画の発明やエニグマ暗号に始まり、DIYバイオ・ビットコイン・スクラッチなど、いくつものケースを引きながら、技術や社会の変化のスピードが加速する時代にいかに適合すればよいかの原則を示されてる。

このような時代をただ楽観的・悲観的に捉えるだけではなく、変わりつつある世界のルールをしっかりと理解して対応することの大切さを説いていると感じる。