人工知能は人間を超えるか

 

将来実現されるかもしれない人工知能のことを考えると、いくつもの疑問が湧く。

人工知能が実現したとき、それはどのような動作原理によるものなのだろうか。人間の知能はどのような仕組みだと理解されるのだろうか。自分が見ているこの世界やこの認識は、はたして何らかの方法で説明可能なのだろうか。自分が見ている以外の世界や認識は存在するのだろうか。自らの理解の方法が、自らの理解の限界をどのように規定しているのだろうか。まだ見ぬ人工知能は、それを簡単に打ち破り、さも当たり前のように、われわれにその事実を語りかけるのだろうか。

著者があとがきに記しているとおり、現時点では「人間の思考を機械で再現する」という意味の人工知能は実現していない。むしろ「作り出せること」と「理解すること」がある意味で等価だとすると、人工知能を実現できる日はそれ程簡単に訪れないだろうことは容易に思い起こされる。

にも拘わらず、近年のAIブームは取り組むだけの価値のある進歩であり、それは、高次元データから有用な特徴量を導く手法が見出されたことによると著者は主張する。

本書で示される推論と探索(第一次ブーム)と、エキスパートシステム(第二次ブーム)は、自分の学生時代にも既に過去のものとなっていた。2000年代初めは機械学習のキーワードの下、パラメトリック統計学に対して柔軟な関数近似能力を持つが「次元の呪い」には打ち勝てないニューラルネットワークの発見的なアルゴリズムに対して、SVMベイズ手法が一つの道筋になるかと期待が高まる時代だったと理解している。

問題は、高次元の表現ではなく特徴量抽出が手順化されていないことだった。一つの答えが深層学習によって示された今、機械学習・深層学習という第三次ブームをブームと幻滅で終わらせてはならないという著者の想いを感じられた。

9プリンシプルズ

 

9プリンシプルズ:加速する未来で勝ち残るために

9プリンシプルズ:加速する未来で勝ち残るために

 

この本はいくつか複雑な主題を扱っているけれど―暗号、遺伝、人工知能など―その主張は単純だ。われわれの技術は、社会としてそれを理解する人間の力を追い越してしまったということだ。だからいまやわれわれが追いつかなくてはならない。

われわれはありがたいことに(またはのろわしいことに)おもしろい時代に生きていて、高校生があたりまえのように遺伝子編集技術を使って新しい生命体を発明し、人工知能の発達で政策担当者たちが、広範で永続的な失業の心配をしなくてはならなくなっている。われわれの古い心の習慣―石炭、鋼鉄、安楽な繁栄の時代に形成されたもの―では不足なのも当然だろう。強いものがいまや必ずしも生き延びるとは限らない。あらゆるリスクを軽減させる必要もない。そして企業はいまや希少な資源のための最適な組織単位じゃない。

 MTIメディアラボ所長の伊藤穣一さんと同研究員のジェフ・ハウの書。古くは映画の発明やエニグマ暗号に始まり、DIYバイオ・ビットコイン・スクラッチなど、いくつものケースを引きながら、技術や社会の変化のスピードが加速する時代にいかに適合すればよいかの原則を示されてる。

このような時代をただ楽観的・悲観的に捉えるだけではなく、変わりつつある世界のルールをしっかりと理解して対応することの大切さを説いていると感じる。

コトラーのマーケティング4.0

 

コトラーのマーケティング4.0 スマートフォン時代の究極法則

コトラーのマーケティング4.0 スマートフォン時代の究極法則

 

市場の結果を理解するためには、カスタマー・ジャーニーという概念を使う必要がある。これは、顧客が製品またはサービスを全く知らない状態からしっかり認知した状態へ、それから関心、購入、再購入へ、さらには推奨へという道筋を、どのように進んでいくかを示すものだ。

現実の世界では、カスタマー・ジャーニーはきわめて複雑かつ多様で、伝統的メディアとデジタル・メディアが様々な組み合わせで絡んでくる。ブランドが勝負する市場の特性は、カスタマー・ジャーニーの複雑さに影響を及ぼす。

 ソーシャル・メディアの普及した現代は「接続性」の時代であり、伝統的メディアとデジタル・メディアを上手に融合させた上で、企業と顧客との関係性を築くことが重要と筆者は主張する。

接続された世界におけるカスタマー・ジャーニーは5A(Aware ⇒ Appeal ⇒ Ask ⇒ Act ⇒ Advocate)としたうえで、最終ステップである推奨に至るコンバージョン率を高めるために、市場特性ごとの顧客応対戦略を定め、人間中心・コンテンツ・オムニチャネル・エンゲージメントというキーワードで説明されるマーケティングのアプローチを活用することが重要と示される。

失敗の本質

 

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

 

組織が継続的に環境に適応していくためには、組織は主体的にその戦略・組織を革新していかなければならない。このような自己革新組織の本質は、自己と世界に関する新たな認識枠組みを作り出すこと、すなわち概念の創造にある。しかしながら、既成の秩序を自ら解体したり既存の枠組みを組み替えたりして、新たな概念を作り出すことは、我々の最も苦手とするところであった。日本軍のエリートには、狭義の現場主義を超えた形而上的思考が脆弱で、普遍的な概念の創造とその操作化ができるものは殆どいなかったといわれる所以である。

 防衛大学校のメンバーを中心とした太平洋戦争時の作戦研究の書であり、「なぜ開戦に踏み切ったか」ではなく、「各々の作戦で的確な戦略遂行ができなかったのはなぜか」の問いに答えを出すべく論が進められる。

上記の文庫版あとがきに示されるように、陸軍では「白兵銃剣主義」が、海軍では「艦隊決戦主義」が、当時にはすでに時代遅れなものになっていたに関わらず、過去の成功体験ゆえに教条的に信奉された結果、現実の戦況に即した行動がとられなかったことが指摘されている。

また、国力の不足する中での開戦のため、先制奇襲作戦を旨として当初の戦略は練られれていたものの、戦略の実行フェーズで当初のメインシナリオがうまく回らなくなった時のコンティンジェンシープランが一切考慮されていないなど、どこが不味かったのかを、ケーススタディしている。

学んだのは、官僚制そのものが、このような結果を生んだのではなく、組織体制として合理的な官僚制を輸入しながらも「集団主義(:情緒的人的結合)」をシステムに内包させてしまったがゆえに、戦略のPDCAが廻らなくなったことが失敗の本質とされていた点。

外資系コンサルのプレゼンテーション術

 

外資系コンサルのプレゼンテーション術

外資系コンサルのプレゼンテーション術

 

 

課題はその企業特有のものです。事業環境は個別の企業によって異なり、加えてその企業の組織として改革案を実行する能力も異なります。したがってアクションも固有のものになるからです。さらに同じクライアント社内の方と会話をしていても、ポジションによって課題の認識は異なります。

なので、一般論で紋切り型の課題設定をしても、それへの提案は画餅になりやすいのです。良い課題には、具体的な達成ポイントや、際立った強い仮設があるものです。そしてその課題に対する具体的な打ち手としての行動計画が戦略案となります。 

 著者は、問題とは「現状と目標とのギャップ」であり、課題は「重要性や緊急性の観点から解決すべきであり、いまだ明確な答えが出ていない問題」であると対比する。そして、その課題に対する行動計画が戦略案となると説明する。

良い課題提起をしたうえで、聴き手の共感を得るために「ストーリーライン」や「論理の型」を選ぶこと、5W2Hに沿ったチャートを組み立て方、プレゼンテーションの現場で失敗しないための準備の仕方が解説されている。

頭でしっかり理解すべきこと、準備と経験を重ねて体験から学ぶべきことを把握し、本書を実践できることが重要と感じる。

イノベーションの最終解

 

イノベーションの最終解 (ハーバード・ビジネス・セレクション)

イノベーションの最終解 (ハーバード・ビジネス・セレクション)

 

破壊的な製品・サービスのイノベーションは、無消費と競争するか、消費を新しい状況にもたらすことで、新しい市場を創出できる。こうした比較的単純で性能の限られた製品のおかげで、より幅広い層の人々が、それまで専門家に頼っていたことを自分でできるようになる。

イノベーションには持続的イノベーションと破壊的イノベーションがある。

破壊的イノベーションが新興企業によって成し遂げられるのは、既存大手企業に対して「非対称な動機づけ」と「非対称なスキル」を有することが一因となる。

外部環境の変化によっても破壊的イノベーションが促進されたり抑制されることもあり、また、破壊的イノベーションが世に広まる兆しに耳を澄ますことは可能である。

本書では、これらを5つの業種の例を引きながら説明されている。2004年の原書を2014年に再訳されたものであり、 特に通信業などは事例として古いものであるが、それがゆえに競争の決着を振り返りながら主旨に思いを巡らせられる。