ラッシュライフ

ラッシュライフ (新潮文庫)

ラッシュライフ (新潮文庫)

サラリーマンの行列が駅の周りを行進している。九時はちょうど出勤の時間帯だ。会社員だった頃にはあれほど嫌だったあの行列に加わりたい、と願った。ラッシュアワーというよりはラッシュライフだ。Rush Lifeの仲間入りがしたい。

伊坂幸太郎さんの2作目の小説。複数の物語が並走して、最後にギュッと収束する。東北の街を舞台にしていくつかの事件や、人々の(非日常的な)生活が並走して描かれると同時に、端々で伊坂さんの他の作品の登場人物も顔を出す。
物語の多重性と同じく、タイトルの"ラッシュ"にも複数の意味があると提示され、ジョン・コルトレーンLush Life(豊潤な人生)も引き合いに出される。

「どうして蚊が神様なんだよ?」
「死ぬ前に見た。その瞬間、俺には分かったんだよ。あれこそが神で、他のは全部嘘っぱちだってな。おまえが今、信じているのは全部嘘だ。言い方を変えてもいい。おまえが今、疑っているものも全部嘘だ」
「蚊とは関係がないだろう」
「蚊なんて、人がいつも無造作に両手で潰しているだろうが。神様も意外にそんなもんなんだ。近くにいる。人はそのありがたみにも気がつかず、平気でぱちんぱちん、叩いて殺しちまっている。神をな。それでも奴らは怒りはしない。神様だからだよ。潰される瞬間、『またか』なんて笑ってしまうくらいだろうよ。俺たちが日常的に殺しちまっているもの、そういうものに限って神様だったりするんだ」
「何が言いたいんだい?」
「『目を開けろ』」

映画にしたら面白いだろうなというスピード感と、結末に向かって不条理な力に飲み込まれていく人々の描写は、アマゾンの書評にもあったけれど、ポール・オースターの世界にも近い気がする。