悼む人

悼む人

悼む人

「冥福は祈っていません」
「え……じゃあ、なにをしているんですか」
「自分流の解釈ですが、安らかにお眠りください、成仏してくださいという想いが、冥福を祈ることだと考えると、家族やゆかりのあった人は、死者の生前の姿を思い浮かべながら、祈るでしょう。でも見ず知らずだと、死者の姿を思い浮かべられないので、宗教施設などで神仏に祈るのと似た、やや抽象的な行為になるだろうと思うんです。ぼくは、亡くなった人を、他の人とは代えられない唯一の存在として覚えておきたいんです。それを<悼む>とよんでいます」

人が亡くなった報道をもとに現場を巡り、祈りを捧げる旅をする人の話。亡くなった人に限らず、自分の前を通り過ぎていってしまった人々のことは、徐々に細部から消え落ちていって輪郭がぼやけてしまう。それが良い/悪いに関わらず、全体の傾向としては仕方のないこと。それでも、運が良ければエッセンスだけは語り継がれていくことになるけれど、運が悪ければ、誰からも忘れ去られたり、歪んで記憶されたりもする。このような、どうしようもなさからの救いを「悼む人」が体現している。
「歪んだ記憶」を生み出す側の週刊誌記者との関わりが描かれているところが良い。