最後の授業

最後の授業 DVD付き版 ぼくの命があるうちに

最後の授業 DVD付き版 ぼくの命があるうちに

「レンガの壁がそこにあるのは、それを真剣に望んでいない人たちを止めるためだ。自分以外の人たちを押しとどめるためにある」

末期がんに侵されたヴァーチャルリアリティの第一人者である大学教授の手記。本の内容は最終講義の内容とリンクされながら記述されている。最終講義の様子はYoutubeで流されていて、反響を呼んだ。

カーネギーメロン大学の教授陣は、アンディの情熱的な推薦状を読んだ。僕のそこそこの成績と、ぱっとしない大学院進学適性試験の結果も見た。そして、僕の入学を拒否した。
僕はアンディに、大学院はあきらめて仕事を探すと言った。
「ダメだ、ダメだ。君は博士号をとらなくてはいけない。そしてカーネギーメロンに行かなくちゃいけない」
アンディは受話器をとり、カーネギーメロン大学のニコ・ハーバーマンに電話をかけた。アンディは受話器を置いて言った。「明日の朝八時に彼のオフィスに行きなさい」
ニコは堂々とした人だった。学部はすでに僕の評価を決めたのに、どうして自分が僕の入学を検討し直さなくては行けないのか。そう訊かれて、僕は慎重に言葉を選びながら言った。
「入学審査のあと、海軍研究事務所の研究奨励金をもらえることになりました」
「お金があるかどうかは、わが校の入学基準に関係ない」と、ニコはおごそかに言った。「わが校の学生には研究助成金から資金を出す」そして彼は僕をにらみつけた。
だれの人生にも、決定的な瞬間がいくつかある。あとから考えて、あのときがそうだったと言える人は幸運だ。僕はそのとき、これが人生のカギを握る瞬間だとわかった。ありったけの若さと傲慢さを奮い起こして言った。
「申し訳ありません、お金の問題だというつもりはありませんでした。全国で十五人にしか認められない奨励金なので、ここで述べるにふさわしい名誉だと思ったのです。お気に障ったのなら謝ります」
僕にはそう答えるしかなかったが、それは真実でもあった。ニコの凍り付いた表情がゆっくり、かなりゆっくりとほぐれ、僕たちは数分間、話をした。

講義は、彼が子供の頃の夢を一つずつ、どのようにして実現していったかを説明しながら進む。この、カーネギーメロン大学への入学のエピソードもそうであるし、大学教員の長期研究制度で、ディズニーランドの企画職である「イマジニア」になったときの話でもそうだけれど、強力な交渉力でやりたいことを成し遂げている。
そんな話をしながらも、「だれの人生にも、決定的な瞬間がいくつかある。あとから考えて、あのときがそうだったと言える人は幸運だ」と、幸運の力を認めていたりもする。

幸運は、準備と機会がめぐりあったときに起こる

そしてこのような言葉も、忘れずについてくる。