アフターダーク

アフターダーク (講談社文庫)

アフターダーク (講談社文庫)

村上春樹さんの作品には,全て背景に共通のモチーフがある気がする.
「森」,「テレビの向こう」,「ホテル」,「井戸」,あるいはもっとわけのわからないもの…その表現方法はさまざまであるけれど,それらはすべて「向こう側の世界」のメタファーとして描かれている.
あちら側とこちら側(それらは,しばしば対位法的な描かれ方もされる).「あちら側」はどこか懐かしい場所ではあるけれど,長く居ることはできない.それには大きな危険を伴う.日常の生活とはかけ離れているように見えながら,ときにそれは大きな力を持って「こちら側」に働きかけてくるし,自分にとってその体験は実際的に重大な意義のあることでもある.また,その入り口はどこにあるかわからないし,突然スッと吸い込まれていくこともある…
そのような「よくわからない」もの(=率直に論理的に表現できない,またそのような行為には意味をもたないもの)についての小説しか書かないという批評をよく見る.
加法性とスカラー倍から空間を定義して連立方程式の解を得るように,デデキントカットと連続性に基づいて微小な変化量を導出するように,可測性の定義から中心極限定理を導いて正規分布を規定するように,「あちら側」の存在を認めることによって,「現実」を描き出そうとする.
必要最小限の公理から出発して,現実的に有益なさまざまな形の解を得ようとする姿勢は共通しているといえるのではないかと感じる.

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何が言いたいのかよくわからないし,そもそも新刊書の書評にすらなっていないのだけど,なんとなく書きたくなったので書いてしまった.