経営戦略原論

 

経営戦略原論

経営戦略原論

 

組織運営において少数の人間に自由と発想、変革の機会を与え、組織全体の運営をより科学的、合理的に理解し、それに基づいて設計することも不思議ではなかった。サイモンやノイマン、モルゲンシュテルンが人間の合理性を探求した時代は、確かに合理性が説明力を持つ時代だったのである。

サイモンが「システムの科学」で説明する限定合理性によって、システムだけでなく組織行動も説明できるという考え方は、「期待効用最大化」のような古典的な経済学の考え方と比べると、随分と人間らしいという感想を持っていた。けれど、同時にそれだけでは現実世界の企業行動を説明するには全然足りていないということも感じていた。

 人間の意思決定を大別すると、限定合理性と期待効用で説明しやすい意思決定、ヒューリスティックとバイアスで説明しやすい意思決定、直感で説明しやすい意思決定という三つのタイプに区別できる。

限定合理性と期待効用で説明しやすい意思決定は、エージェンシー理論で扱いやすい問題であり、数値管理を中核としたバランスト・スコアカードやKPIの実践により、ある程度までは誘導しうる。

より難しくなるのは、ヒューリスティックやバイアス、直感に基づいた意思決定をどう誘導するかである。これを単に組織内の雑音と捉えるのか、それとも、社員のそうした特性にまで一定の方向性を与えようとするのか、ここに一つの大きな挑戦が存在する。

本書第9章では、 意思決定を3種類に区分したうえで、限定合理性で説明できる領域以外にも意思決定の種類が存在し、その残り2つを如何に科学的に取り扱う対象とできるかを「挑戦」と述べている。

オペレーションズ・リサーチや経営工学の取り扱う「限定合理性」の世界と、経営の神様や先達の考え方から哲学を学びとる「人間学」の世界とは、異なる出自の相反するアプローチであって、決して融合しえない存在ではないかと考えていた。

しかし、本書の意思決定の区分の説明を追う中で、理論の世界ではしっかりと系統立てて研究されているものだということを学んだ。