探求ーエネルギーの世紀(上)

探求――エネルギーの世紀(上)

探求――エネルギーの世紀(上)

石油・電力・気候変動・新エネ等、エネルギー問題について俯瞰する本。

価格が上昇すれば、活動が増える。価格が下降すれば、活動は減る。高価格はイノベーションを活気づかせ、供給を増やすために、創意工夫に富む新しいやり方を編み出す意欲を強める。よくいわれる”確認埋蔵量”は、”倉庫”にある固定した量を棚卸するような、ただの物的概念ではない。経済概念でもある。――採算のとれる範囲内でどれほどが回収できるかを示し、投資が行われたときのみ帳簿に載る。また技術的概念でもある。テクノロジーが進歩すれば、物理的に回収できなかったり、採算が合わなかったものも、可採埋蔵量に変わるからだ。

石油が産業に用いられるようになって以降、何度も枯渇の危機が騒がれ、実際に枯渇しかけていた。それが技術革新によって、可採埋蔵量自体が増大することによって、今日まで増え続けるエネルギー需要を賄うことができている。
同様に、需要サイドのインパクトも大きく、経済成長を続ける中国の需要を賄うため、どれ程のエネルギー供給増を必要としているかの試算に驚く。そして、これは一国だけの問題ではなく、世界全体の経済を成長させるためにエネルギー供給を今後も増やし続ける必要があって、それは何らかのエネルギー源で賄われなければならない。

二〇〇七年にカタールインドネシアとマレーシアを一気に抜いて、世界最大のLNG輸出国になった。この人口一五〇万の小さな首長国は、世界のLNG供給の三分の一近くを提供しようとしていた。
カタールを首位の座に押し上げた要因は、物理的な資源と技術能力ばかりではなかった。交渉のテーブルについた相手方が、カタール側が有能で、意思決定がきっぱりしていることを悟ったからでもあった。カタール側はかなり強気にもなったが、短期間でディールをまとめ、物事を素早く決断しようとする意図があった。
この手法がどれほど大切であるかは、カタール沖の境界線の向こう側と比べれば明確にわかる。イランが四〇年も開発しているサウス・パースのガス田は、いまだに輸出を開始することができない。

同様に、地政学の問題も大きいことを知る。「LNGを船で輸送する」という技術革新をきっかけに、エネルギー供給構造は大きく変わる。もちろん要素は技術革新だけでなく、将来にわたって供給を受けられる政治的安定性も大きな要素となる。
パイプラインをどんなルートで建設するのか、そして、二一世紀の現在でも独裁国家が幅を利かせていたり、ゲリラによって安定的な供給が妨げられたりと、政治的な理由ひとつで、活用できるはずの資源が利用できず、よりコストの高い代替手段を強いられたりもする。