マンキュー マクロ経済学〈2〉応用篇

マンキュー マクロ経済学(第3版)2応用篇

マンキュー マクロ経済学(第3版)2応用篇

たいていの経済学者は,政府負債に関しては伝統的な見解をとっている.この見解によると,政府が財政赤字に陥り国債を発行すると,国民貯蓄は減少し,それによって投資の減少と貿易赤字がもたらされる.長期的にはこれは,定常状態での資本ストックの縮小と対外債務の拡大につながる.伝統的な見解をとる人たちは,財政赤字が将来の世代に負担を残すと結論する.
しかし,この評価に懐疑的な経済学者もいる.政府負債についてのリカードの見解を提唱する人たちは,財政赤字は単に現在課税を将来課税に代替するだけであると強調する.消費者は将来を考慮している限り,自分や自分の子供の将来における税負担に見合うようにいまは貯蓄するだろう.これらの経済学者は,財政赤字は経済に対して小さな影響しか及ぼさないと信じている.

財政収支を合わせるために課税ではなく国債発行するということは、すなわち減税である。減税は可処分所得の上昇をもたらし、消費を促す。家計における所得は消費と貯蓄に振り分けられるため、消費が増えれば貯蓄が減る。
一国内の一定期間における貯蓄額と投資額は、恒等式であるので必ずバランスをする。したがって、国債を発行するほど貯蓄額は減少して、自ずと投資額も減少する。この恒等式を成り立たせるものは利子率の上昇である。
一国の経済成長は、長期的には生産力に応じて定まる。生産力は、生産要素である資本と労働力と技術力の関数である。投資額の減少は、長期的に見ると資本蓄積の減少をもたらす。結果として、国債発行することは、将来の経済成長率を引き下げる効果をもたらすことになる。
これが「財政赤字についての伝統的な見解」であり、「リカードの見解」は異なる。
「減税」が、政府支出の減少によるものなのか、国債発行を織り込んだものなのかを、消費者である家計はきちんと評価をしているというのがリカードの見解。「減税」の見返りが将来降りかかってくることを予想した消費者は、消費を増やすことなく将来に向けて貯蓄を積み立てておくから、国債に依存した減税は消費刺激の効果を持たない。

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伝統的な見解かリカードの見解かにかかわらず、財政赤字が正当化されるケースは限られるとのことで、将来世代も便益を享受できる社会インフラの整備や、「自由を獲得するため(と、アメリカ人の著者が主張する)戦争費用(!)」や、景気循環で一時的に税収が落ち込んだ場合の課税平準化などに限定される。
また、財政赤字が国民貯蓄を減少させることが貿易赤字を誘発したり、国際金融市場で取引される国債の信用力を下げることで利子率の上昇を引き起こしかねないなど、財政赤字の蓄積は副作用をもたらし得る。

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本書は、マクロ経済学の「応用編」として、超長期の成長理論や経済政策、ミクロ経済学マクロ経済学の関連について述べられている。
複数の経済変数と恒等式体系から示されるマクロ経済モデルに基づく議論を追うことは、本書を一回通して読んだだけでは、すべて腹に落とすことは難しかったので、少しずつ理解を深めていきたい。
財政赤字の蓄積は将来世代に負担を残すために、あまり良くないものだということについては、恐らく見解がばらけることはない。では、どうすれば良いのかという対策については、簡単なキーワードで説明することはできないのかもしれない。
昨日のNHKスペシャル「日本国債」で放送していた「国債はつけで飲むようなもので、そろそろ限界を迎えつつある」というのは、メッセージとしては正しいのかもしれないけれど、ではどうすればいいのだということは教えてくれていない。ムードだけで景気刺激策を単純批判するのではなく、将来の経済成長(=生産関数の出力)を増大させるために何をすべきかとか、世代間負担のあるべき公平性とそのための現在負担など、客観的に議論できるように冷静に知識共有を図る必要がある。