ネットで生保を売ろう!

ネットで生保を売ろう!

ネットで生保を売ろう!

ライフネット生命副社長の岩瀬さんによる、会社立ち上げまでの体験記。
ハーバード大学MBA留学記ブログが、ある投資家の目に留まり、ニッセイOBの出口さんと引き合わされたところから話が始まる。
その後、出資者を巡り、金融庁に許認可免許を受けるために足を運び、一緒に立ち上げるメンバーを誘い、システムを構築して、会社設立に漕ぎつける。
会社が立ち上がった後も、伸び悩む加入者を、投資家のプレッシャーに耐えながら、プロモーション戦略を練りながら、何とか軌道に乗せる。
とても頭の良い人が、人柄と人脈とセレンディピティを駆使して会社を立ち上げる物語ではあるのだけれど、そこで岩瀬さんの目の前に立ちはだかる問題や感じる悩みなどは、とても身近な等身大のものに思えてくるのが不思議な印象。

ライフネット生命の事務システム構築がどこから始まったのかというと、出口が2本の人差し指で書き上げた十数ページの業務要件定義書だった。これに加え、手書きで書いた5枚ほどのフローチャートもあった。
これを見た古川が、驚いて言った。
「え?出口さん、保険の事務やったことあるんですか?」
「いいや、ないよ。なんで?」
「いや、ここまで詳しく書かれちゃうと、自分が付け足すことがないんですけど……」
この時点で出口はすでに、ウェブの画面の申し込みからその後の顧客管理や保険金支払いまでを、プロを唸らせるほどかなり細部にわたり、頭にイメージを描いていたようだった。

システム構築についての記述で、(同業他社からシステムを買ってくることなく、)一から要件定義を始めて、それを短期間で軌道に乗せてリリースしたところは、興味深かった。
システム発注者としてやるべき最小限のエッセンスを纏め上げて、恐らくはアジャイルな開発手法で組み上げる。しかも簡単なウェブサービスではなくて、1円でも間違えてはいけない金融の基幹系システムでそれを実現したのは凄いことだと思えた。
上述の古川さんが、とかく過剰実装となりがちな基幹系システム構築の経験に反して、シンプルな要件に拘り抜いた出口さんに対して送信したメールに対する、出口さんからの返信が、以下。

切ること、捨てること、はとても難しい。それを、やりたいのです。全ての場合を考えて、全て用意するのは、実は、簡単。全ての事象を抜き出して、それに発生確率(といっても想定ですが)を掛けて、事務を、極力、シンプルにする。間違っていれば、ウェブベンダーのX社に、追加修正して貰えばいい。そのために、X社を選んだのです。枝葉への扉を開けてけば、いつでも、繋げます。まず、贅肉を徹底的にそぎ落とした、太い幹を作って欲しいのです。

既存生保のように、幾度の約款改定を経ながら積み重なる貯蓄型商品ごとに構築された複雑な制度に対して、掛け捨て型のしかも少数の契約種別に限られる、ライフネット生命のシンプルな商品体系は、保険契約者のみならず、システム開発者をも幸せにするコンセプトなのかもしれない。