プロフェッショナルコンサルティング

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マッキンゼーとボストンコンサルティングという戦略系コンサルティング会社出身の2名による対談の本。
著者の一人の冨山さんは、2003年に金融再生のために設立された産業再生機構でCOOを勤めていた。

事業デューデリジェンスコンサルティングファームを堕落させた
冨山 繰り返しになりますが、少年少女探偵団レベルのものが返ってくるのは、発注した側にも問題はあるとも言えるんです。でも、それは世の中で言う事業デューデリの常識がそうなっちゃっているということでもある。少なくとも僕はそう思う。実際、産業再生機構時代に、ウチの支援先企業を買収したいファンドに事業デューデリを頼まれたコンサルティング会社から、マネジメントインタビューと称して、僕のところに若手の少年少女探偵団が上から目線で話を聞きにきたりしたから。
波頭 相手が冨山さんだからこそかもしれませんよ。パートナーとかシニアマネージャーだと、冨山さんのことが怖くて来られなかったのかもしれない。
冨山 だって、事業会社が発注したら、それこそプロ中のプロなんですから。例えばコマツが建機の問題でコンサルティングファームに事業デューデリを発注することもありうるわけですよね。そこで少年少女探偵団レポートが上がってきても価値はない。玄人が頼んでいるのだから。
航空会社の案件でLCC(格安航空会社)について聞いたら、「LCCとはこういうもので、こういうふうにできます」っていうレポートが出てくるわけです。いや、理屈の上ではできるんですよ。でも、それは理屈の話なんです。発注者の顔や、日本の航空行政の現実を浮かべて、本当にできるのかを考えないと。
波頭 現実の会社組織や社員の実態をふまえるとあり得ないようなことを、戦略的ブレークスルーと言って平気で出したりする(笑)。
冨山 そこが大事じゃないですか。「LCCは理屈の上ではできるけど、この航空会社を使ったら絶対で来ません」というのが正しいレポートなんです。でも、そういうレポートにはならない。

ここで事業デューデリジェンスとは、M&Aなどの企業買収で、買収する側の企業が買収される側の企業が投資対象としてどの程度の価値があるのかを評価するための調査を示す。
また、対談中で「少年少女探偵団」と述べられているのは、本来買収する側の企業に役に立つレポートをしなければならないコンサルタントが、実際は本や雑誌で調べられる程度の表面的な調査報告しか作れないことを揶揄している表現。
戦略系コンサルタントは、実務経験があるわけでもないにもかかわらず、クライアントである事業会社の経営者に対して、価値のあるレポートをしなければならず、余程能力が無い限りは「少年少女探偵団」になってしまうのだという。

情理は「情」の理屈。ロジカルシンキングで情理も追求できる。
波頭 情理も1つのロジックとするならば、大切なことはとにかくロジカルに考え抜く姿勢というのに尽きると思います。情理を"ロジックが通用しない世界"と思ってしまうと、「これはなかなか一筋縄ではいかないな」で済ませてしまいがちになる。
冨山 そこで思考をやめちゃいけない。ロジックじゃないところに逃げ込んじゃうから。

「少年少女探偵団」に留まらないようにするためには、人間の「情」の部分をもロジックの流れに組み込んだ上で、結論を出す必要があるのだという。もちろん、「情」の部分を30歳そこそこのコンサルタントが説いても、経営者を動かすことはできないのだけれど、直接述べないにしても、そういうものの存在をも含めて考え抜くように訓練しなければいけないのだという。
デパートの1階にいるような販売員をインタビューして、現場の人が頑張る動機を解きほぐし、企業のコアになる強みの部分を論理的に導きだして、企業再生の取っ掛かりを見つけ出すことができる。あるいは、格安航空会社というものが幅を利かせているからといって、収支が悪化している伝統的な大手航空会社の経営者に向かって、その事業形態に手を伸ばしなさいと助言することは間違っている。
経営数値のデータ分析やロジカルシンキングの手法を知っているだけでは不十分で、その企業にいる人間の行動原理までをも含めて論理で整理し尽くさなければいけないのだという。
戦略系コンサルタントというと、漠然とすごいのだろうけど何が凄いのかは判らなかったのを、この対談は凄さの一辺を垣間見させてくれた。