デザインのためのデザイン

デザインのためのデザイン

デザインのためのデザイン

IBM社の汎用機OS/360のデザイナで、「人月の神話」を35年前に記した著者による本。ここでのデザインとは、ソフトウェアやコンピュータ・アーキテクチャに留まらず、航空機や家の建築など、あらゆる製品のデザインを対象にしている。
著者は現代の製品デザインは、チームによる共同作業が前提であるがために、コンセプトの完全生をいかに維持するかが重要になるのだと言っている。
第9章「ユーザモデル」では、チームのメンバ各人が明後日の方向をみてもの作りをしないためには、明確なユーザモデルと利用モデルの明文化が重要であると述べた上で、それをどのようにして導けば良いかについて、以下のように言っている。

曖昧であるよりは間違っている方がよい!
この時点で、読者のみなさんは、「どうすれば利用モデルやユーザに関してそんなに詳しく知ったり、ましてや前提を立てたりできるのだろうか?」と異議を唱えられるだろう。
答えは、「実際には、結局、これらの前提を立てている」である。すなわち、デザイン決定は、意識していようといまいと、そのデザイナが持つ利用モデルやユーザモデルに関する前提によって導かれている。これが多くの場合実際に意味することは、曖昧なデザイナはユーザを「自分自身」で代用し、自分がユーザであったら欲しいと思うものをデザインしてしまうということである。しかしデザイナはユーザではない。
したがって明確な前提は、仮にそれが間違っていても曖昧な前提よりも遥かによい。間違った前提はおそらく疑問に晒されるだろうが、曖昧なものは疑問さえ抱かれないのである。

プロジェクトのメンバが、全然期待と異なる成果物を作ろうとしているとき、それは能力が低かったり思い込みが激しかったりというコンピテンシーによるのではなく、「まだ形のない成果物に対する共通認識」を得るためのコミュニケーションが健全に機能していないことによる。
「叩かれ台を元にした議論と文書化を通じて認識を共有化して行く」というまわり道のようにも見えるプロセスの重要さを再確認できる。