1Q84(Book2)
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2009/05/29
- メディア: 単行本
- 購入: 40人 クリック: 432回
- この商品を含むブログ (941件) を見る
心から一歩も外に出ないものごとは、この世界にはない。心から外に出ないものごとは、そこに別の世界を作り上げていく。
新刊のオビに引用されているように、「別の世界」で物語が進む。そして、Book2を終わりまで読んでも、ストーリーは「この世界」に戻って来ない。これまでの長編小説では、主人公が「別の世界」に足を踏み入れることがあっても、多くの場合、別の世界からの警告によって、「この世界」に戻ってくることになるにもかかわらず。
「ここにあるのは、あっちとはまた違う現実なんだ。あんたは今はまだここでは生きていけない。ここは暗すぎるし、広すぎる。もうそろそろ行った方がいいな。ここはあんたには寒すぎるから」
ダンス・ダンス・ダンス(上) (講談社文庫)
「さあ早く。あなたはここを出ていかなくてはならないし、あなたがここから出ていく方法はこれしかないのよ」と彼女は言った。部屋の暗闇の中に廊下の光がさっと差し込むのとほとんど同時に、僕らは壁の中に滑り込んだ。
ねじまき鳥クロニクル〈第2部〉予言する鳥編 (新潮文庫)
「遅くならないうちにここを出なさい。森を抜けて、ここから出ていって、もとの生活に戻るのよ。入り口はそのうちにまた閉じてしまうから。そうするって約束して」
海辺のカフカ (下) (新潮文庫)
"Book2"では、主人公は徐々に「別の世界」に移行していくことになる。そして、もう一人の主人公も、彼の紡ぎだす世界に徐々に組み込まれていくことになる。そして「別の世界」の袋小路に陥ってしまわないように、注意深く手順を踏んで、「この世界」への繋ぎ留めを確保している。
「君は重い試練をくぐり抜けなくてはならない。それをくぐり抜けたとき、ものごとのあるべき姿を目にするはずだ。それ以上のことはわたしにも言えない。実際に死んでみるまでは、死ぬということがどういうことなのか、正確なところは誰にもわからない」
その上で、どのような「試練」をくぐり抜けることになるのか。きっと続刊では、これまでにない規模と詳細さと質感で「別の世界からの帰還」について語られることになるのだろうという(随分と勝手な)期待を持ちながら、読み終える。