チーム・バチスタの栄光

チーム・バチスタの栄光(上) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 599)

チーム・バチスタの栄光(上) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 599)

バチスタ手術は、学術的な正式名称を「左心室縮小形成術」という。一般的には正式名称よりも、創始者R.バチスタ博士の名を冠した俗称のほうが通りがよい。拡張型心筋症に対する手術術式の一つである。
肥大した心臓を切り取り小さく作り直すという、単純な発想による大胆な手術。余分なものなら取っちまえというラテンのノリ。こんな手術を思いつくだけですでに常識を逸している。その上実行までしてしまうサンバの国、ブラジル。
手技は難しく、リスクは高い。成功率平均六割。バチスタ手術に手を出さない医療施設も多い。門外漢の俺のもこの程度の基礎知識はある。一般的ではないが、有名な手術である。

成功率の低いバチスタ手術の、高い成功率を誇る手術チームで、突如失敗例が連続し始めることに対して、主人公が聞き取り調査を始める。

俺の主要業務は、月・水・金、週三回午前中の不定愁訴外来だ。
不定愁訴とは、軽微だが根強く患者に居座り続け、検査しても器質的な原因が見つからない些細な症状全般を指す。不定愁訴という言葉から医師が連想するイメージは、「相手にし始めたらきりがない」であり、その一般的な処方箋は、「聞き流す」もしくは「放っておく」である。
不定愁訴外来は、陰では"愚痴外来"と呼ばれている、らしい。俗称のほうが通りがよい点は、桐生のバチスタ手術と似ている。

主人公は、患者の話を聞くことを専門科とする医師。そこに、厚生労働省からの調査官も加わって、事故原因の真相に迫る。という、ミステリー仕立ての小説で、去年には映画化もされていた。筆者は現役の勤務医であるとのこと。
関係者への聞き取りを軸として物語が進んでいくのだけれど、登場人物のキャラクターがそれぞれ立っていて、物語に引き込まれていく。面白い。