ロンセストン

f:id:gotouma:20040313124649j:plain
終日ロンセストン滞在

朝から晴れ。昨日までのトレッキングの疲れを取り、翌日からの自転車ツーリングへの準備を整える休息日。バックパッカーズでいつものとおり米と味噌汁の朝食を取り、ベランダに出てテントや寝袋、そして登山靴を干した後、街に出る。

始めに小さな写真屋に行き、それまでのデジカメに入っていたメモリカードの情報をCD-Rに焼き込んでもらう。128MBのメモリカードは既に容量の大部分を使ってしまっていて、いったんクリアする必要があった。その後、通りを歩いているとインターネットの看板を見つけたので、メールに返信をしたりウェブログを更新したりする。

サブウェイでサンドウィッチを食べてコーヒーを飲む。そして、ロンセストンの観光名所となっているカタラクト峡谷まで歩いてゆく。カタラクト峡谷までは、川沿いの道を30分ぐらいハイキングしたところにある。谷を挟んで、スキーの一人乗りリフトのような形をした「チェアリフト」が渡されているので、それに乗って対岸に行く。

リフトを降りたところがオープンカフェになっていて、そこでミートパイを食べてビールを飲む。敷地の中にクジャクが放し飼いにされていて、危うくミートパイを食べられそうになったりもした。対岸の道を下って街に戻る。河原が芝生の公園になっていて、ごろんと横になってビールの酔いを醒ます。流れていく雲と蒼い空が、やけにくっきりと見えていた。

Colesというスーパーマーケットに行き、米やら夕食の材料やらの買い出しをした。また、タスマニアの日差しの強さに今更ながら気づき、サングラスを買うことにした。

買い物袋を両手に抱えて部屋に戻ると、三人の人がいた。一人目は23才のドイツ人で、東京大学に通った経験があって渋谷に住んでいたと話していた。いまはドイツにある日本料理店でスーパーバイザーをしているのだという。二人目はオーストラリア大陸北部のアウトバックを自転車で縦断してきたのだという、仙人のようなあご髭を蓄えた中年男性。そして最後は、農家での住み込みの仕事を探しにロンセストンにやってきたのだという腹の出ている中年男性だった。

正直なところ、なんとも胡散臭い3人組だった。バックパックの旅行なんていうのは、人生のある時期にきちんと済ませておくべきで、中年になってまでやっていたら駄目なのだと、その3人を見て強く感じたりもした。彼らはこれから「Izakaya」という名の日本料理店に行くところなのだけど、一緒に行かないかと誘ってきた。既に夕食用にステーキ肉を買ってきているといって誘いを断り、キッチンで夕食を作る。

キッチンには同じ年ぐらいの韓国人のカップルがいた。車でタスマニアを巡っているところなのだという。日本語で「私たちはカレシとカノジョなんです」と教えてくれた。キッチンは混雑していて、座ったテーブルには、自転車でタスマニアを巡っているというオーストラリア人の中年夫婦がいた。

シャワーを浴びて、ロビーにあるインターネットを使っていると、今日宿にやってきたのだという日本人に話しかけられる。彼は東京で映画制作をしているのだといっていた。自転車で北海道や長野を旅行したこともあると話していた。そんなことを話していると、ドイツ人の青年も夕食から戻ってきたので、三人でビリヤードをやる。ドイツ人の青年に日本料理屋の感想を聞いてみると、「テンプラのスープが良い味だった」と話していた。

23時にビリヤードの部屋が閉められると、映画制作の男(名前を失念してしまった)と二人で外に飲みに行こうということになる。宿を出ると、遠くでロックが鳴っているのが聞こえる。その方向に行ってみると、そこは野外に生演奏のバンドのいるバーだった。店に入ってジントニックを頼む。中はひどく混雑していた。

カウンターで飲んでいると、地元の人間と思われる20過ぎぐらいの泥酔した女が、強い口調の早口で何か聞き取れない言葉を話しかけてきた。ひとしきり話し終えたかと思うと、「あなたは日本人か?」と尋ねてくる。そうだと答えると、背中に大きく「氏」と彫られた漢字の刺青を見せてきて、「これはどんな意味か?」と聞いてきた。

唐突に「氏」なんていう文字を見せられ、どう説明したものか悩んでいると、今度は腰に彫られている「愛夢」という刺青を見せてきて、「これはLove & Dreamだろう?」と言った。以前に他の日本人がちゃんと教えたのだろう。はたして彼女が「氏」の意味を理解できる日は来るのだろうかと心配になる。そもそも一体どこの誰が、よりによって「氏」などという漢字を刺青にしなくてはならないというのか?

「ライターはないか?」と尋ねられ、ないと答えると僕に対する興味を失ったらしく、隣にいた警備員の白人男性に絡み始めた。僕らは店を出て、オーストラリアのカジノ・チェーンのOASISという店に向かう。カジノでは、スロットマシンに3豪ドル入れたところで当たりがでて、すぐに18豪ドルになった。その後一緒にいた映画制作の男にコインを貸したりしているうちに結局すべてなくなってしまった。なんにせよ、たった3豪ドルで楽しめるというのは、なかなか良いと思う。

カジノを出て、MTVの流れるバーに入って更にビールを飲んだ。この頃日本でもよく流れていたアウトキャストの「Hey,Ya…」というのが耳に残る。2時に店を出て宿に向かう。途中、現地の若者がたむろしていて、横を通り過ぎるときに一人が追いかけてきた。突然に僕の肩にタックルをして、耳元で「Fuckin’ Pussy!!」とかなんとか叫んでくる。

タックルはソフトなものであったし、酒の為か恐怖心も感じない。ただヘラヘラとその場をやり過ごした。映画制作の男はちょっと先のところで、そんな始終を見ていた。

2時半就寝。長い一日。明日からは旅の再開。