ウォータフォール・バレー・ハット→クレイドル・バレー

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09:00-11:00 ウォータフォール・バレー・ハット→クレイドル山の登山口
11:30-14:30 クレイドル山登山
14:30-16:30 クレイドル山の登山口→ロニークリーク

7時20分起床。オーバーランド・トラック最終日。朝から良い天気。

9時にハットを出発して、クレイドルバレーとバーンブラフとの分岐点までは、緩やかな上りが続く。標高があがるにつれ、オサ山やオークレー山など、これまで進んできた風景を後ろに振り返ることができるようになる。坂を上り終えると丘が広がっていて、すぐ先に分岐点が見える。朝日に照らされるバーンブラフをしばらく見た後に、道を右に折れて先に進んでいく。

草原の丘の道をしばらく進むと、道の脇からカメラを構えている男がいた。隣に立ってみると、苔状の大きな丸い植物がそこにあった。写真を撮っていた男が、これはクッション・フラワーというのだと教えてくれた。まさにネーミングのとおりの植物だった。そこからしばらくすると、正面に荒々しい岩山が見えてくる。クレイドル山だった。クレイドル山の脇の道をしばらく進んで、ほぼまわり込んだかという頃に登山口への分岐に到着した。分岐に70Lのザックを置き、手持ちのビニール袋にカメラ・三脚・水・雨カッパ、そしてパスポートを入れ、それだけを持って登山道に向かう。

登山道は、クレイドル山の岩山を標高を上げながら進んでいく。上り始めてしばらくすると、「登山道」というよりは岩と岩の間を渡り歩いていくようになる。道などというものは存在せず、ただところどころ、岩の間に刺さっているポールを目印に歩みを進める。

登山も中盤になってくると、巨大な岩がゴロゴロとしている斜面を文字通りよじ登るようになり、ロッククライミングをしているかのような状態になる。手持ちの品を入れたビニール袋を岩の上に置き、両手を使える状態にして三点確保をして岩をよじ登り、また次の岩に…というのを繰り返す。岩の隙間からみえるのは暗闇だけで、足を滑らせたらと思うと嫌な汗が出る。

こんなところを沢山の人が続々とよじ登って事故は起きないのかと考えたり、進むごとに徐々に険しくなる道に恐怖を感じたりしながらも、岩山の外側を登り終える。ピークまでの道は、岩山の内側をまだ続いているのだけれど、適当な中間点が途中に見つかったということで、一度はここであきらめて引き返そうかと考える。景色の開ける岩の上によじ登って、三脚を構えて写真を撮り、水を飲みながら景色を眺めてしばらくの間休憩をとる。

今ひとつ達成感のないままに登山道を眺めていると、続々と人が登ってくるのが見える。そんな光景を見ていると、やはり先に進んでピークまでたどり着きたいという気持ちが戻ってくる。カメラだけをズボンのポケットに入れ、水やらパスポートやらを詰め込んだビニール袋は岩の陰に残していくことにして、頂上を目指す(いったい誰がこんな所で僕のパスポートを盗もうと考えたりするのか??)。

両手が自由になると、不思議と恐怖心も感じないようになる。残りの行程はテンポ良く頂上までたどりつけた。クレイドル山の頂上からは、ペリオンギャップから先のオーバーランド・トラックのコース全景を見渡すことができた。見えている部分だけでも3日間分の行程を振り返ると気持ちが良い。そしてピークからどの方向を見てみても、視界の限り続く草原・山・湖…小さなハットの建物と、細長く続く幾筋かの登山道の他には、決して狭くはないエリア一帯に人工物は何一つ見えない。

ソニアも頂上に上ってきていて、岩山の端から下を見下ろして写真を撮っている。それを見て自分も端からカメラを見下ろしたのだけど、冗談じゃないくらい高い崖が、柵もなくすぐ足元に広がっている。

下山。道すがらにパスポートの入ったビニール袋を無事回収しながら、登山口まで戻ってくる。再びザックを背負ってキッチン・ハットまで進むと、これまでの行程をずっと同じ日程で歩いていた7人組の女の人が、6人分のザックとともに座って休んでいた。話を聞いてみると、足を痛めてしまったために、クレイドル山を登っている仲間を待っているのだという。

マリオンズ・ルックアウトという、xx湖を見下ろせる展望台のところで、味噌汁を作って遅めの昼食をとる。その後、ゴールのロニークリーク駐車場を目指して歩みを進める。途中いくつかの滝や湖を脇目に見ながら下りの道を歩いていく。クレイドル山から先の道では、日帰りと思われる登山者ともしばしばすれ違うようになる。あるところで、先のほうにきらきらとアスファルトが光る駐車場が小さく見える。徐々に駐車場は近づいてきて車が走っているのも見えるようになり、少し感動をする。

コース上で、多くの人が立ち止まって草原のほうを見ていた。その先にはウォンバットが2匹、草を静かに食べているのが見えた。16時半、ロニークリーク駐車場に到着。ログブックに下山のサインをして、クレイドルバレーへのシャトルバスを待った。滝のところで休憩をしていた二人組みの女の人に「オーバーランド・トラックを歩いてきたのか?」と尋ねられ、そうだと答える。「Congraturations!!」と声を掛けられ、なんというかゴールをしたんだなという実感が沸いてくる。ほかにも、コース上ですれ違った男から、「オーバーランド・トラックのゴールは、すぐそこに見えているぞ!」と声を掛けられたりもした(つまりは、荷物の大きさと、格好の汚れ具合から、デイウォーカーとの違いは明らかなのだ)。

バスを降りて、キャンプ場にチェックインをして、売店で買い物をしていると、「ライスを買っているの?」と、可笑しそうにソニアが声を掛けてくるのが聞こえる。テントを張っていると、オーストラリアからの7人組もやってきて、「これからカフェで夕食をとるんだ」と、声を掛けてくれる。皆がそれぞれにゴールを実感していた。僕はシャワーを浴びて6日分の汚れを落とし、一人でテントで夕食を作って就寝した。