パインバレー・ハット→キアオラ・ハット

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07:30-09:50 パインバレー・ハット⇔エリシア湖
10:30-13:20 パインバレー・ハット→ウィンディー・リッジ
13:50-16:30 ウィンディー・リッジ→デュケイン・ハット
16:50-17:40 デュケイン・ハット→キア・オラ・ハット(24km,徒歩)

6:00起床.昨夜降り続いていた雨は上がっている.寝袋を抜け出して,米と味噌汁の朝食を作る.カーウィンは紅茶とチョコバーだけの朝食.テントはそのままにして,「ラビリンス」というサイド・ウォークのルートを歩いて,エリシア湖畔を目指す.ラビリンスという名のルートは,その名前の通り非常にわかりにくい.ルートは森の中を進んでいくのだけど,はっきりと踏みならされた道ができている訳ではなく,所々に配置されているマーカーを注意深く探しながら進んでいく.途中,開けた場所から霧に覆われたセントクレア湖を見下ろすことができる(写真).その後急坂をしばし登ると森が開ける.エリシア湖の水はとても澄んでいて,顔を洗うと気持ちいい.

パインバレー・ハットに戻り,テントを撤収する.ザックに装備を詰め込んでいると,キウィのおじいさんとカーウィンから,何て大きな荷物を持っているんだといわれる.確かに,小屋に並んでいる他のどのザックより,自分の荷物は大きいような気がする.十分な防寒着とそれなりの着替え,そしてガイドブックや英和辞典まで持ってきているというのは,ちょっと無駄な装備が多すぎたかもしれない.昨日足にできたブリスター(日本語ではマメ?タコ?水ぶくれ?)に絆創膏を貼り,湿ったテントや寝袋で重みを増したザックを背負い,歩き始める.

パインバレー・ハットは、オーバーランド・トラックのルートからは脇道にそれた場所に位置するため、まずはその分岐点まで1時間ほどの時間をかけて引き返すかたちになる。その道すがら、カーウィンは話しかける。「昨日の夜みんなで話をしていたときに、君はあまり喋らずに話を聞いているだけだった。ソニアが自転車で旅をしている話をしていたときに、君も自分が自転車できていることを喋れば、話ももっと弾んだんじゃないか?」と。

カーウィンの言うことはもっともだった。それは自分の英語力の問題ではなく、(前々から分かってはいたことだけど)性格の問題だった。普段なら、そんなことを言われてもムッとするだけなのだろうけれど、外国に来ていて、しかもタフな男に言われると素直にそのとおりなのだと認める気持ちになる。

そんなこんなをしながら歩みを進める。徐々に荷物の重さと湿った靴の中にできたマメの痛みで、自分の歩くペースがカーウィンについていけないようになる。昨日の分岐点までたどり着いたときに、カーウィンが「ここから先は、別々に進んでいかないか?」と切り出した。確かに、自分の歩くペースとカーウィンのペースでははっきりとした差があることが分かった。例えそれが荷物の重さやマメにあるのだとしても、このオーバーランド・トラックの行程の中で大幅に改善してペースが上がるということは考え難い。なにより、自分は6日かけて歩くつもりで、カーウィンは5日で歩き切るつもりだったのだ。当然のことながら、携行している食糧の差がある以上、2人そろって6日かけて歩くということは不可能なのだ。

ここで握手をして別れを告げて、カーウィンは先を急ぐ。自分はしばらくその場で休憩をした後に、再び歩き始める。途中小川で遊ぶ5・6名の集団を追い越し、ウィンディー・リッジの山小屋で朝に作っておいた昼食の弁当を食べたりしながら歩みを進めていく。そのようにして着実に歩みを進めてはいるものの、徐々に荷物の重さが耐えがたい苦痛となってくる。そんな苦しいときには、色々とネガティブな思考が頭の中をぐるぐると回り続けることになる。

「なんでカーウィンは自分をおいて先にいってしまったのだ」と考えてみたりする。しかし冷静に考えれば、それが妥当な判断であることは言うまでもない。すると今度は「なんで自分はカーウィンと同じペースで歩けるなんて考えていたんだろう」と、矛先が自分の判断ミスに向かう。更には「そもそも、なんでこんなに重い荷物を自分は背負っているのだ。英和辞典を山に持ってくるなんてばかげてる」などと、いまさらどうしようもないことにまで腹を立てる(例えそれが山小屋の暖炉であっても、火災防止のために何か他所から持ち込んだものを燃やすことは禁じられている)。

歩き続けて16時半頃に、森が開けて小さな山小屋があるのが目に入ってくる。山小屋は雨戸が閉ざされていて、中に入ると真っ暗な中に暖炉やテーブルが置かれているのがぼんやりと見える。空気はずっと昔からそこに滞留しているような埃っぽさがある。地図を広げてみてみると、この山小屋はデュケイン・ハットという名前で、「緊急時以外宿泊禁止」とされていることが分かる。どうやら、オーバーランド・トラックを始めて開拓した人々が作った歴史的な山小屋であるようで、通常は更にコースタイムで45分ほど先にあるキアオラ・ハットに泊まることが推奨されているようだ。

既に疲労はピークに近い状態であったので、今日はここでやめておこうかという気の迷いが生じる。しばし悩んで結局は先に進むことに決めたのだけれど、それは「緊急時…」の注意書きが気になったというよりは、古ぼけた山小屋に一人キャンプするのが空恐ろしかったという理由の方が大きかった。

残りの気合を振り絞って50分の行程を歩み、夕暮れ1時間ほど前にキアオラ・ハットに到着する。ハットには、カーウィンとソニアの姿もあった。日没までの時間、昨日乾ききらなかったテントや寝袋を乾かして過ごす。f:id:gotouma:20000113163432j:plain