ブッダガヤ

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朝5時起床。蚊の攻勢が激しくて、寝不足の感がある。寺院での日の出を見にいこうという話になり、マハーボーディ寺院まで歩いてゆく。しかし、本堂の中にいる仏陀を飾る豆電球の電飾や、薄汚れている蓮の池など、妙に安っぽい印象を受ける。昨日の夕方に同じ場所で感じた神聖さとは全く対照的な印象であるのだけれど、これは信者(=信じる人々)の不在がもたらしたものなのだろうと思う。

宿に帰ろうと歩いていると、背後から親しげに話しかけてくる日本語が聞こえてくる。振り返ると、白い衣服が、昨日のホーリーですっかり赤色に汚れてしまった小さなインド人の親父が話しかけてくる。これは怪しいと伊藤と話しつつも、チャイを奢ってくれるというので後をついて行く。そしてチャイを飲みながら「一緒に、スジャータの村まで行こう」と持ちかけてくる。

そして親父の言葉は続く。「私お金いらないよ。ただ、帰りに私の経営する土産物屋に一緒に行こう。無理に何かを買わなくてもいいから」と、初めから手の内を明かしてきた。まあ、そのときになったら、いくらかのサービス料を上乗せしてあげればいいだろうという軽い気持ちで一緒に行くことにする。

8時半に待ち合わせをして親父と別れ、出店でフルーツを買って部屋で食べ、一眠りする。8時半に待ち合わせ場所に行くと、親父(彼の名はインディラ氏という)と、その友人氏が待っている。彼らと共にスジャータの村に向かうべく、ネーランジャラー川を渡る。乾季のため川の水は干上がっている。インディラ氏は砂の河原にところどころ掘られた穴を指差して、洗濯カーストの人々が洗濯をする水を得るために掘った穴なのだと教えてくれた。

川を渡り、田舎道は続く。インディラ氏は「飲んで、飲んで、飲まれて、飲んで…」と日本語で唄いだす。そして、ヒンドゥー語の歌を唄って、その後でそれを日本語に訳して唄い直すなど、日本語の達者な愉快なインド人だった。途中の集落で休憩をする。椰子の実ジュースを飲み、枝豆のような硬い豆を食べる。そして、この椰子の実ジュースは朝に採ったばかりのものなのだけれど、半日ほど置いておくと甘さが消えて酒になるのだと教えてくれた。

そしてインディラ氏と伊藤と3人で肩を組んで集落を背景に記念撮影。写真を撮るときに、シャッターを押してくれる友人氏は「はい、撮りマース、1・2・3!」と声を掛けていた。その後さらに歩みを進め、スジャータの村へ行く。高台に上り、前正覚山をバックに再び記念撮影をする。

帰り道、インディラ氏は「私の家へ行き、昼食を食べないか?」といって、市場に行き、魚・野菜・果物…を、次々と買っていく。そしてリクシャーをひろって僕達を乗せてくれ、彼らは自転車に乗って後をついてきた。彼らの村に到着して、彼の家に行くと奥さんや子供達が迎えに来てくれる。そして、酒を振舞ってくれ、「僕は睡眠薬を入れたりしないよ。ここはデリーやカルカッタとは違うよ」という。

多数の日本人が写ったアルバムを見せてくれて、「このお坊さんは1週間うちに泊まっていって、今度日本に招待してくれることになったよ」という。インディラ氏は僕達を満足させれば、日本人は大きな買物をしてくれるのだということを知っているのだと気づく。その後、マサラーを料理するから一緒に見に来いといって、台所に連れて行ってくれる。奥さんは石のまな板の上で香辛料をすりつぶしていて、いとこだという青年は調理用の灯油ストーブで魚をフライしていた。それらが出来上がると、焼酎で日本式の乾杯をして昼食。

これほどの接待を受けるということは、彼らが要求する金額は100Rsや200Rsどころではないなと、ちょっと不安になる。が、出される料理も酒も、どちらもとてもうまい。インディラ氏が「うまいから飲め」といったサラダの汁は、とても塩っぽくあったけれど。

その後、インディラ氏のおじさんの家に行く。すると、おじさんの奥さんや、インディラ氏の奥さん、娘や息子達に囲まれて、お菓子をつまみながら「ヒンディー語レッスン」を受けて、写真を撮る。インディラ氏の接待攻勢にあきれながら疲れながらも、笑顔を絶やさないようにと気をつける。

インディラ氏の家に帰ると、スパイスや紅茶を見せてくれる。「僕の商売は仏像・土産を売ることで、全然儲けはないのだけれど、マーケットじゃ買えないものだから、欲しければ分けてあげるよ」と、売り込んでくる。そらきたぞ、と身構えつつも、これまでのお礼の意味も込めて、紅茶に入れるというマサラの値段を聞いてみる。100gで460Rsだと教えてくれたのだけれど、結構高い。400Rsしか入っていない財布を見せて、「それじゃあ、あなたの店で買物ができなくなってしまう」といってみる。すると、インディラ氏は両替もできるといってくる。ちょっと困り「お金を換えるにはバンクレシートが必要なんだ。しかも認証された銀行の…」と言い張って、結局半分の50gを230Rsで購入する。

インディラ氏は少し不機嫌になる。まあ、それもそうだろう。その後、フィッシュカレーとライスを更にすすめられ、気を取り直してご馳走になる。そしていよいよ、インディラ氏の土産物屋に向かうことになる。土産物屋までは馬車に乗せて行ってくれるといい、代金も払ってくれる。

インディラ氏の土産物屋には、$60の曼荼羅や、やはりドルで値段が表記されている数珠やネックレスなどが並べられている。伊藤は色々親父と話をして交渉をして、結局数珠などを3品で$20まで値切って買っていた。僕は店の中を見回しても、どうしても欲しいと思えるものが見つからなかったので、結局何も買わなかった。

すると、インディラ氏は何か日本製品を譲ってくれという。特にあげられるものは何もないというと、じゃあビールを奢ってくれという。ブラックラベルというビールを飲み、つまみに青豆を食べながら、4人で5本のビールを空ける。インディラ氏らも商売が終わって大分カジュアルになり、「”レストラン銀座”という店のオーナはダメな男なんだ」などと、酔っ払いの話を聞かせてくれる。

店を出た後も、彼らと行動を共にする。友人氏のクリシュナ氏の家に行き、馬車引きの男や警察のおじいさんらと焼酎を飲む。ここでもつまみは硬い青豆だった。テレビでクリケットの試合を見ていると、明日、インディラ氏の奥さんの実家に一緒に遊びに行かないかと誘われ、1000Rsかかるという車代の半額の500Rsを払ってくれといわれる。

もう疲れ果てていて明日はゆっくりしたいのだと思いながらも、強烈な営業攻勢に負け、一応の「約束」を交わして、家を出て、一緒に町の中心部まで歩いて帰る。変われ際に、「明日の車代を今ここで、前金で払え」といってくる。先ほどの誘いを断りきれなかったのも悪いが、前金で払うというリスクを払うのも面倒くさいなと感じる。伊藤は、明日も行ってみたいと思っていたようで前金を払おうといっていたが、僕はもう面倒だから嫌だという。インディラ氏の激しい営業攻勢も加わり3人で激しく口論。

もう疲れて訳が分からないこともあるけれど、インディラ氏も自分達も大きな声で言葉のやり取り。横で見ていたドライバーの男もニヤニヤしながらそんな様子を眺めている。30分話し合った末、結局そこで別れることになる。18時半、無事帰還。

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この日が、旅の中でもっとも「インドらしい」一日だったと感じる。僕はインディラ氏に対して正当な対価を払ったのだろうか??多分かなり払いの悪い顧客だったんじゃないかと思う。それでも、インディラ氏はムッとしながらも、懲りずに営業攻勢は続いた。